炭 し の ss。 炭

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冨岡義勇には兄弟子がいる。 竈門炭治郎という、鬼を連れた異端の剣士だ。 妹を鬼にされたところを鱗滝に救われたという炭治郎は、確かに義勇の兄弟子ではあったが、水の呼吸を極めず、独自の流派を作った。 結果、現在水柱は不在となっており、炭治郎や鱗滝の期待は義勇と錆兎、真菰に集まっていた。 三人の内、誰が水柱になるのか、という話題で柱たちが賭けをしていることも、義勇は知っている。 知っていて、自分には無理だろうと思っていた。 だって、錆兎はすごい。 真菰もすごい。 義勇は二人に敵わない。 どの修行だって、大抵は錆兎が一番に出来るようになる。 真菰と義勇は同列二位が大半で、だけど、義勇は知っていた。 自分は後一歩真菰に及ばないのだ、と。 なぜ、及ばないのだろう。 なにが足りないのだろう。 必死に考えれば考えるほど、思考は堂々巡りで結論に辿り着かない。 本日の修行も、義勇は錆兎と真菰に勝てなかった。 溜め息交じりに居候をしている炭治郎の屋敷に向かっていた義勇は、目の前にひょこりと現れた禰豆子にものすごく驚いた。 「?!」 「いいこ、いいこ」 目を見開き固まる義勇の前で、禰豆子はにこりと笑ってたどたどしい言葉と共に義勇の頭を撫でた。 炭治郎の妹で、鬼の禰豆子を、けれど義勇は嫌いではない。 いや、禰豆子を嫌っている者の方が少ないのだ。 義勇が鬼殺隊に入ったときには『そう』だったから、それが鬼殺隊の『当たり前』なのかと思っていた義勇だが、雷柱の我妻善逸曰く「いやぁ、最初はすごかったよ。 殺すのなんの、大騒ぎ」と言っていたので、禰豆子が受け入れられたのは、禰豆子本人の資質はもとより、炭治郎の文字通り血の滲むような努力の賜物なのだと知った。 禰豆子に頭を撫でられながら、静かに混乱している義勇の前で、太陽を克服した稀有な鬼でもある禰豆子はずっとにこにこと笑っている。 「あ、禰豆子! 義勇も!」 「炭治郎さん……!」 救世主が現れた。 明るい声は義勇の兄弟子のもので、義勇はぱっと表情を明るくした。 炭治郎なら、このわけのわからない状況もなんとかしてくれると信じていたからだ。 禰豆子に頭を撫でられ続けながら、駆け寄ってきた炭治郎にどう説明したものかと義勇が迷っていると、炭治郎がからからと笑った。 「義勇最近落ち込んでいるの、禰豆子が気にしてたんだよ」 「えっ」 「さっきいきなり駆け出して行ったから何事かと思ったら、義勇のことを見つけたんだな!」 禰豆子に心配されていたと言うのも申し訳なさがあるが、それを兄弟子で尊敬する炭治郎に知られていたのも羞恥が募る。 顔を赤くした義勇に、炭治郎が首を傾げる。 やっぱり禰豆子の手は義勇の頭を撫でたままだ。 「義勇また可笑しな心配しているんだろう? 大方、錆兎や真菰関係だな!」 「え、あ……はい……」 「杞憂とまではいかないけどさ、いらない心配だと思うぞ。 義勇はがんばってるからな! 俺が保障するよ!」 小さな声で頷いた義勇に、炭治郎が胸を張る。 なぜ炭治郎が誇らしげにしているのか、全くわからず混乱する義勇の前で、ようやっと炭治郎が禰豆子の手をとった。 「大丈夫だよ、義勇はきっと水柱になれる。 俺は『知ってる』から」 「?」 「ふふ、まだ内緒だよ」 なにを『知ってる』のだろう。 首を傾げた義勇の前で、炭治郎が笑う。 その笑みが酷く蠱惑的で、人差し指を唇に当てた仕草が、とても妖艶だったから。 さらに顔を真っ赤にした義勇に、炭治郎の手が伸びてくる。 最近ぐんと身長が伸びて、あと少しで炭治郎に追いつきそうな義勇の頭を撫でた。 「大丈夫、義勇なら出来るよ」 それは、魔法の言葉のように義勇に染み込んでいく。 大丈夫、俺は出来る。 だって、炭治郎さんが言うんだ。 大丈夫、俺は出来る。 だって、炭治郎さんが保障してくれた。 「はい!」 赤い顔はそのままに、元気よく返答した義勇に、炭治郎がまた笑った。 今度は義勇もよく知る、快活な炭治郎らしい笑みだった。

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もし炭治郎が、日の呼吸の適性が最適最強だったら

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鬼殺隊の柱には、水柱、炎柱、蟲柱、音柱、霞柱、岩柱、風柱、恋柱、蛇柱の9人とそれからもう1人。 日柱というものがある。 全ての呼吸の源となる日の呼吸の使い手である竈門炭治郎は、名実ともに鬼殺隊最強である。 今回はそんな彼の話をしよう。 「失礼します!!」 相変わらず元気な声だと、耀哉は頬を緩める。 長期の任務で1ヶ月程、鬼殺隊本部を離れていた彼は傷一つなしで帰ってきたそうだ良い事だ。 「おかえり炭治郎。 すまないね、疲れているのに呼び出してしまって。 」 「いいえ、構いません!」 耀哉の向かいに座った炭治郎は幼い顔で笑っているのだろう。 そばに居たあまねが柔らかく笑った。 幼い頃と変わらないであろう彼の笑顔を思い浮かべる度に耀哉は癒された。 「お茶を淹れますね。 」 「ありがとうございます。」 「炭治郎。 禰豆子は」 「今は家で俺の継子と休んでいます。 3人ともとても良く働いてくれたので。 」 「そうか。 今は別の継子か」 「はい!無一郎くんは柱として活躍しているそうで!」 「あぁそうだね。 今の子は伊之助と善逸だったかな?」 「とてもいい子ですよ!今回の任務でも... 」 その後炭治郎は2人がどれ程成長したか、2人がどれ程素晴らしい才能を持っているのか。 嬉しそうに話した。 茶を淹れ終えたあまねは、ぽんと炭治郎の肩に手を置く。 「炭治郎さん、落ち着いてください。 」 「はっ!すみませんつい!」 「いいんだよ。 お茶を飲みなさい。 あまねが淹れるのは美味しいよ。 」 お互い一度落ち着いて、ふうと息をつく。 そして耀哉は口を開いた。 「柱達には会ってきたかい?」 「いいえ、まだ」 「今、彼らは柱稽古というものをしているんだ。 」 「... なんでしょうそれは」 「簡単に言えば次世代の柱を育てる、というか才能を見出す為の稽古かな。 」 それを聞いて、ほぉ、と炭治郎は手を打った。 「それは良いですね。 具体的にはどのような」 耀哉は一通りの流れを説明して行った。 「まずは、宇髄天元によるしごき、基礎体力向上」 「基礎は大事ですからね!」 「甘露寺蜜璃による柔軟」 「なるほど」 「時透無一郎による高速移動の稽古」 「... それ大丈夫ですか」 「伊黒小芭内による太刀筋矯正」 「... なんという... 」 「不死川実弥による無限打ち込み稽古」 「... 隊士生きてます?」 「悲鳴嶼行冥による筋肉強化訓練」 「... 後半大丈夫ですか、無一郎くんくらいから隊士の心折れてません?もしくは死んでません?」 普段から天然ボケをかましている炭治郎もさすがに隊士達には心底同情した。 全部枕詞に「地獄の」がつきそうだ。 「あれ、義勇さんとしのぶさんと煉獄さんは?」 「しのぶは隊士達の治療にあたって貰っているよ。 」 「なるほど」 「あと2人は数名の隊士と鬼を狩りに行っているよ。 」 「え、大丈夫なんですか、2人で」 「最近は鬼の数がだいぶ減ってきているからね。 鬼舞辻が何か考えているのかもしれないけれど。 そのなにかの為に備えておくのも大切だろう。 」 ここまで聞いて、炭治郎は疑問に思った。 己にやることはあるのかと。 何しろ炭治郎は人に教えるのがめっきり下手だ。 継子の善逸にも時折文句を言われることも。 「耀哉様、俺は何を」 「そうだね... 今すぐにとは言わないけど、とりあえずは柱達の所へ行ってあげて欲しいかな。 」 「え」 「骨のあるやつがいない!って特に実弥から苦情が入っているんだ。 」 頭を抱えたくなった。 俺は柱の相手ですか... 」 せっかく次世代を担う子達と交流を持てると思ったのに、と炭治郎は項垂れる。 「まだ誰も行冥の所を突破していないからね。 もし合格する子がいたら最終的に君に任せるとするよ。 」 「... 居ますかそんな子... 」 「そう拗ねないでおくれ。 君の継子も参加するといい、勉強になると思うよ。 」 「... それもそうですね」 「うん。 今日はもう帰って休むといい。 禰豆子たちが待っているだろう。 呼び出して悪かったね。 」 「いえ!そんな、善逸と伊之助にも参加するよう言っておきます!耀哉様もお体を大切にしてください!」 では!と勢いよく頭を下げて炭治郎は帰っていった。 随分部屋が静かになったように感じる。 「柱の皆さんは喜ばれるでしょうね。 」 「あぁ、私たちの太陽が帰ってきたからな。 」 鬼殺隊がより明るくなりそうだ。 と耀哉は微笑んだ。 「嫌だァァあああぁぁああ!!!!」 「おお!!面白そうだな!!俺は行くぞ!ししょー!」 「その調子だ伊之助!」 「馬鹿なの!?!!死ぬぞ!!」 「善逸、行った方が学べることが多いと思うぞ。 」 「嫌だいやだ嫌だ!!俺は師匠に教えてもらうんだぁ!!」 「俺が教えるのが下手なの知ってるだろ... 」 「ししょーをこまらせんな!!明日から行くぞ弱味噌!!」 「イヤアアァァァァアアアァァァァアアア!!!! 」 「そう急くんじゃない。 せめて傷が治ってからにしなさい。 明日はしのぶさんの所に行くからな。 」 次の日、蝶屋敷に炭治郎はまだ箱で眠っている禰豆子を背負って継子2人を連れて訪れていた。 「あぁ!!日柱様!!」 「胡蝶様〜!!日柱様がいらっしゃいましたよー!!」 アオイ達が騒ぎ立てると、しのぶがやけに急いで現れた。 「炭治郎さん!!」 「久しぶりです!しのぶさん」 「何故ここに、どこか怪我でも... 」 「あ、いや俺じゃなくて。 2人を」 しのぶは目をぱちぱちと瞬いて炭治郎の後ろを見る。 見慣れない子供に、首を傾げた。 「俺の継子です。 」 「まぁ、そうなんですか。 」 まじまじと2人の顔を見ながら、しのぶは笑顔で小さな声で言った。 「あなた達は時透くんのようにはならないで下さいね。 」 今度は2人がぽかんとした。 時透とは前の炭治郎の継子のことだろうか。 僅か刀を握って2ヶ月で柱になった時透無一郎ならば全隊士が目標にするべき人物だろう。 あのようになるなとはどういう意味だ。 「どうしたんですか?しのぶさん」 「いいえ、なんでも。 申し遅れました。 私は蟲柱、胡蝶しのぶです。 私は鬼の頸は切れませんが鬼を殺せる毒を造ったちょっとすごい人なんですよ。 」 ふふっと胡蝶が笑う。 絶対この人綺麗だけど絶対怖い人だ 善逸はこの人だけには逆らわないどこうと密かに心に誓った。 同時に時透無一郎のようにはならない、とも。 「こちらへどうぞ。 」 診察も一通り終わって、大きな怪我も無かったがだいぶ体に疲労が溜まっていた為、一日は安静にしていた方がいいと言われ、伊之助と善逸は蝶屋敷で面倒を見てもらうことになった。 「そうですか。 明日から柱稽古に。 」 「そうだ!!絶対強くなる!!」 「僕は嫌です。 」 「私の継子も行っていますが、相当キツいそうですから、お身体には気を付けてくださいね。 」 笑顔で言い放ったしのぶに善逸はうわぁと頭を抱えた。 伊之助はよりやる気のようである。 「あ、俺、柱達の所に行かなきゃいけないんだった。 」 「... もう行ってしまうのですか?」 「すみません。 2人のこと頼みます。 」 「はい。 お任せ下さい。 」 しのぶから寂しそうな音がした。 善逸は音で感じ取ったが炭治郎は匂いで察したのだろう。 去り際に笑顔で言った。 「今日は一緒に夕餉を食べませんか?しのぶさん」 「え、」 「あっと... 久しぶりに会えましたし... 」 そう恥ずかしそうに炭治郎が言うと打って変わってしのぶの音は嬉しそうなものに変わった。 「はい、もちろん。 」 そういったしのぶの顔は、心底嬉しそうだったそうな。 「じゃあ、俺はこれで。 」 「お気をつけて。 」 炭治郎が去るのを見送って、いいもの見たな〜と善逸が和んでいるとしのぶから何やら不吉な音がした。 「ふふっ... 」 しのぶの不吉な笑みに善逸は心の底から畏怖したという。 次回、宇髄天元編。

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授業中の校内であるという事実から覚える背徳感すらも、もはや快感を煽る一因でしかない。 長い口付けから解放され、惚けながらも酸素を求め胸を上下させる義勇に、目の前の獣はペロリと舌舐めずりをする。 「今日、四月一日」 「知っている」 なんだ、揶揄うつもりが揶揄われたらしい。 冨岡は気は済んだか、と去っていく。 なんとなく、その背中を呼び止め、柄にもなく緊張して告げる。 「嘘ついていいのは午前中だけらしい」 「…知っている」 髪の隙間に覗く耳が赤く染まっていた。 宇髄の言葉も己の答えも、いつも変わらない。 何度言われても変えるつもりもない。 「冨岡…いつもみたいに答えないのか?」 「…っ」 優しく触れてくるその手に胸が早鐘を打つ。 嗚呼、いつの間にこんなにも絆されていたのか。 持ち主が席を外している今見るのは憚られたが好奇心がまさってしまう。 宛名のない、いくつもの書きかけの手紙。 その内容を見て顔に熱がのぼる。 口角の上がる口元を手で覆いながら独り言ちた。 確かに錆兎はかっこいい。 顔も良ければ頭も切れる。 厳しくも優しく、面倒見がいい豪放磊落な性格。 完璧だ。 かっこいい。 とても。 天は二物を与えず、なんて言うが、そんなことはない。 そう告げると、派手好きの友人は決まって言う。 この人何考えてるかわからなくて怖いし。 頬にご飯粒ついてますよ、なんて指摘して不興を買ったらどうするの。 炭治郎早く戻ってきてよぉ…。 こんな状況ないでしょ!ないわ〜…何が一番ないって、男を、よりにもよって柱でしかも親友の兄弟子のこの人をちょっと可愛いかもとか思っちゃった自分だよ。 まさに阿吽の呼吸。 お互いがお互いを大好きな事なんて見てればわかる。 そりゃね?子どもの頃からの親友なのはわかるよ?でもさあ、無自覚でそんなことしてるのを見せられるこっちの身にもなってよ。 おいそこの派手神、なあにが「よっ、おしどり夫婦」だ。 初めて見た時から、清廉な雰囲気と深い海のような瞳が目に焼き付いている。 歓喜、郷愁、哀情。 どうしようもない衝動に駆られるのは何故だろう。 すれ違いざまに腕を掴んで引き止める。 いつも凪いでいる瞳が驚きに見開かれていた。 「なあ、君」 ずっと、君を探していた気がするんだ。 はずなのだが、この男は堂々と告げた。 大量の貢物に困惑していると、贈り物の主は静かに微笑む。 「冨岡。 あと4年、君の時間をできるだけ俺にくれないか」 その言葉に、つきりと胸が痛む。 「すまない、煉獄…」 「何、謝ることではない。 君は命を賭して鬼殺隊としての使命を全うしたんだ」 頬に触れる掌に哀情が募る。 「俺の時間など、全てくれてやる。 煉獄、俺もお前の時間がほしい」 『それは寒い夜だった。 帰りついた邸には至る所にあの男の熱が残っていた。 もう二度と見えることのない男の言葉を思い出す。 ただ一つ、大きな虚無感だけが胸を支配していた。 この家はこんなにも広かっただろうか。 嗚呼、あの炎がひどく恋しい。

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